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古屋隆太インタビュー

  • ──自己紹介からお願いします。

古屋:古屋隆太(ふるやりゅうた)です。昭和46年産まれの46歳です。今までは青年団というところで、現代口語演劇と言われているスタイルの演劇をずーっとやってきております。

──谷さんは、平田オリザさんが本などでやっちゃいけないということを自分のお芝居でやっている、とよく言うんですけど。

古屋:そうですよねー、そうですね、感じますね。

──今回の作品では?

古屋:今回の作品でも彼自身が言っているポイントがあって、ある汽車のなかで初対面の人間が会話を始めるんですけど。まず平田オリザの場合は、人種にもよるんですけど、日本人の場合はあんまり見知らぬ人に汽車のボックス席で向かいにいるとしても、物理的には可能ですけど精神的にというか……実際話しかけますか? と。大方の日本人は話しかけないらしいですね。

アメリカ人は話しかける人が多い、イギリス人はかなり話しかけない人が多いっていうのがあって、そこからワークショップで実験を始めるんですよね。じゃあ何があれば、話しかけるでしょうか? 例えば僕が話しかけなきゃいけないとして、向かいにお腹の大きい妊婦さんがいるとする。そうすると、けっこう話しかけやすくなるんですよ。あるいは、二人しかいないとして、ものすごく変なものが、隣に落ちている。それで僕がついつい気にしていると、こっち(向かい側の人)も自分のものではないですと言いたくなる。そういう、いわゆる「人間って環境に喋らされるよね」っていう発見をしてきている人なんですね。劇作家として。

それって、そもそもは「ご旅行ですか?」というセリフを俳優に喋らせるときに、どうもうまく言えない俳優が多いって問題意識を持ったかららしいです。何でだろうというと「ご旅行ですか?」と実際に言った経験がなければ、それはやっぱり言いにくいですよね。言語というか言葉として。そこからスタートしたオリザさんのワークショップがあるんですけど。それに比べて谷くんは、今回だと僕の役は、初対面のたかしくんに「いいもんだね、故郷があるというのは」って、話しかけるんですよ、いきなり。 だから、その平田オリザの提唱する現代口語演劇の土俵でやってきたものとしては、ものすごくハードルが高いです。

──台本を見たときに「おっ」と戸惑うのですか?

古屋:戸惑うというか、それは未熟な劇作家がそういうことを分からずに書いちゃっているのではなく、谷くんが確信的にそのシーンを書いていることが分かるので「おーっ、そういうふうに来るか」と。そうすると僕も現代口語演劇俳優気取りで「何かこれは言いにくいよね」とか言わずに、もうちょっと違う感じで初日から稽古に臨まないとなって思いましたね。

──青年団と全然違うダルカラという劇団に参加してみて、いまどういう印象ですか? お稽古が始まって9日目ぐらいだと思うのですが……。

古屋:うーん何ていうか、玉手箱みたいな。もうフル! MAX! を超えて、「こんだけ演劇っておもしろいこと出来るんだよ」って。玉手箱というか大風呂敷というか、そういう感じなんで……まあ実現は簡単ではないんですけど、きっと僕らはそれを実現させるでしょうし、相当おもしろい。老若男女難しいこと考えずに楽しめる作品になるなと思って、不安に慄きながらも希望がある。ワクワクするみたいな……心境で稽古に臨んでいます。

──今回の作品は東日本大震災が背景にありますが、2011年3月11日は何をしていましたか?

古屋:確かあの時確定申告が済んでなくて、女房と僕と当時4歳か5歳だった息子と三人で所沢(埼玉県)の税務署に車で行って、女房が税務署で作業をやっている間、税務署の向かいにある広ーい航空記念公園にいたんですよ。航空発祥の地と言われている公園なんですけど、そこに子どもの広場みたいな遊具がいっぱいある一角があって、そこの砂場にいたんです。だから、周りは何にもない。下はやわらかい。相当安全な場所にいたんですね。まあラッキーといえばラッキーだったんですけど。

その時に印象に残ったことがあって、すっごい自分が脳の異常で目眩がしてしまったと思うぐらい、ぐらぐらして倒れそうになったんですよ。これは地震だな、すごいの来たと思って、その砂場で子どもを遊ばせている若いママさんに「今の地震ですよね」と言ったらシカトされたんですよ(笑)。いやー、こんなにひどいのと思って……このディスコミュニケーションというか若い人だったんですけどね。そんなにシャイというか何ていうか、他人と話、出来ねえんだと思って。あれだけ揺れてその人も恐れ慄いただろうに、それでも知らないおっさんに声をかけられて警戒するっていう。「その警戒間違っているでしょう」と。ほんと、いざという時に助け合えないよなと思ってショックでしたね。それで家に帰ってもそんなにひどいことになっていなくて、震源はどこなんだろうって思ってたら、東北、福島だと聞いて、びっくりしましたね。福島ででっかいのは初めて聞いたので。

──家に帰るときは、普通に帰れたのですか?

古屋:そうですね、車で15分ぐらいの距離ですし、特に混乱はなかったですね所沢市は。ただやっぱり、東京が混乱しているっていうのは聞いていましたし、これは相当だなと。まぁ、親戚とかが東北にいたりはしないので、そういう心配は無かったんですけど。

──その後のお仕事に影響はありましたか?

古屋:その後、青年団の舞台があって、それをやるかどうか? というのを、劇団として答えを出すのに割と時間をかけましたね。電力をとても使うことですし、お客さんあっての演劇ですから。やっていいのかどうか? ということと、やったところで成立するのか? ということと。

特にその時はオムニバスというか、4本ぐらいの短編・中編をまとめてやる予定だったんです。それで僕が担当していた中編は関東大震災のことが出てくる内容だったんですね。僕は大杉栄(大正時代の社会運動家・アナキスト)の役で。大杉栄って諸説ありますけど、関東大震災の混乱で甘粕さん(軍人)に虐殺されたと言われているわけじゃないですか。その関東大震災の1か月ぐらい前からの連続してない4日間を、4場構成でやる舞台で、その翌日に関東大震災があったっていう設定だったんで、まあ、ちょっと考えましたね。

──今年公開された映画「息衝く」にも出演されていますね。

古屋:あれも青森県六ヶ所村を題材として扱っている映画で、参加させて頂きましたね。10年ぐらい温めて制作された映画なんですけど、5年ぐらい前かな? いきなり声をかけていただいて「ぜひ古屋さんに」って。難しい題材で難しい役どころだったんですけど、いろいろ僕の舞台を観て下さって、先ほど話をした大杉栄の役を観て「あっ、この人なら芯の強さを体現してくれるかな?」と思ってくださったみたいで、若い政治家の役でした。

ちなみに原発関連で言うと、ある撮影もしてますね。それもなぜか声がかかって、まだ事故から日が浅くてガイガーカウンター置けば「ピー、ピー」って鳴っていた時にみんなで現地に乗り込んでロケをして。仙台が宿だったんですけど、そこから毎回2時間かけて撮りにいきましたね。

おだか(南相馬市小高区)でしたかね。その時まだ避難解除がされてないところで、ただ昼間だけは何かを取りに戻るとかはいいよ。という状態で……そこの実話として、駅前の花壇に一人で花を植えているおばあさんがいたらしくて、その方と会ってショックを受けて、「自分に何ができるんだろう……」って黄昏ている記者の役だったんです。

撮影が終わったら着ていたものは全部、靴から何から「もうこれは処分しなくてはいけないんで」って袋に入れられて。その後、仙台の健康ランドみたいなところにみんなで行って、新幹線で帰ってきましたね。

──今回の役は、これまでとは少し違う感じですか?

古屋:そうですね。映画『息衝く』でやった役は、政策として廃炉をっていう方向で与党に働きかけてくれって党の上層部に訴える青年の役でした。僕自身も、息子がいますし、相当パニックになりつつも、やっぱり、原発……は恐ろしいものだと。絶対にこのまま原発依存は続くべきではないと思いましたし、今でもそういう想いの方が強いですね。

でも今回はお話いただいた時に、「電車の中で青年と会う夏目漱石の三四郎に出てくる先生のような」、「ファウストのメフィストのような」、人間の欲望に付け込んで誘惑するような、そういう役って聞いて、そっちかぁ……真逆の役だなぁと思って。それで僕なりに何冊か参考になりそうな本を読んで、いわゆる悪役としてではなく、その人の立場とかその人の想い……ってものが台本を渡された時に理解出来るようにっていう準備はしてたんです。

でもやっぱり今日稽古して、新しくもらった台本でやる時に、個人的な深層心理の意識が出ちゃって、ちょっとこう悲壮的なというか……つらそうなセリフ回しになってしまって、もうちょっとあっけらかんと言った方が良いですねって言われたんですよね。だからやっぱり、そういうところでどうしても嘘をつけないというか、人間こうなるんだなぁと思って、役者古屋まだまだこれからだなって思いましたね。難しさは感じてますね。

──谷さんとしては、結構前から古屋さんには出てもらいたいと思ってらっしゃったってことですよね。

古屋:一回、あうるすぽっとプロデュースの「TUSK TUSK」ってやつでご一緒させていただいて、その時……僕は、谷君のことをいいなぁって思って、向こうはどう思ってたかわかんないんですけど(笑)。それから1年後か2年後かに、彼も人たらしというか(笑)、うまーく誘われて「上手い役者だけを集めてやるワークショップ」とかいうタイトルでお誘いが来たんですよ。そんな誘われ方したら断れないじゃないですか。「じゃあ……行っちゃおうか?」ってなっちゃうじゃないですか(笑)。そこでもやっぱり楽しくて、これはいつか何かまた一緒にやることになりそうだなぁって僕も期待してました。

オファーをいただいた時、とっても嬉しかったんですが、その時にもう既にこの時期に別の仕事を決めてたんですよ。だけど、谷君とは、もう何か話が来たらやるって決めてたし。それに役柄が役柄で、その漱石の三四郎の先生のような、ファウストのメフィストのようなって聞いたら、こーれやりてぇなぁと思って。
すーごい時間をかけて、誠意を込めて謝罪して、ごめんなさいちょっとこれはほんとルール違反というか、自分としても決めているルールには反するんだけれども、先に決めたにも関わらず降ろしてくださいと。僕やりたいのがあってと。それでこっちを決めた次第ですね。

──ダルカラファンとしては古屋さんが出るっていうのはすごく楽しみです。谷さんが連れてくるベテラン俳優陣は必ず凄いことをして下さるので。

古屋:そうですか。なんでしょう、このプレッシャー(笑)。
そのご期待にしっかり沿えるといいなというか、その期待を超えるぐらいの「超えるぞー!」ぐらいの気持ちで頑張ります。