──では順番に自己紹介からお願いします。
井上:井上裕朗(いのうえひろお)です。よし子役です。
塚越:塚越健一(つかごしけんいち)です。ゆき男役です。
百花:百花亜希(ももかあき)です。黒猫役です。
大内:大内彩加(おおうちさいか)です。ベージュ猫役です。
春名:春名風花(はるなふうか)です。とも美役です。
宮地:宮地洸成(みやちひろなり)です。けん太役です。
深沢:深沢未来(ふかざわみく)です。まち子役です。
東谷:東谷英人(あずまやえいと)です。高梨役です。
──塚越さんと百花さんは初演・再演と同じ役ですが、他の方は自分が今回の役を割り当てられてどうでしたか?
井上:よし子は、ずいぶん前に谷さんとこの役について話をしたことがあったので、そんなに意外でもなかったかなぁ。今回よりは、去年やった『1961年:夜に昇る太陽』での3歳の方が意外でした(笑)。
一同:確かにね、確かに(笑)。
井上:あと(『1961年:夜に昇る太陽』では)お兄ちゃんだった宮地が、息子になるという(笑)。あまりにも衝撃過ぎてどうしたもんかなっていうね(笑)。
──私は、けん太は宮地さんに凄く合っている気がします。
宮地:うん。
井上:「うん」ってなにそれ(笑)。
宮地:いや、僕にとっても意外性はなかったです。若いし、なんか演劇目指している感じだし、大学辞めようとしてるし。いや、僕は大学辞めないですけどね(笑)。ちょっとシンパシーあるなぁって感じで。僕は実際には次男なんで長男の感じは分からないですけど、妹のいる感じとかはなんとなく分かるんです。
春名:自分は長女で弟がいる立場なので、逆なんですね。ただ4年前谷さんが演出した『TUSK TUSK』という作品に出た時も、お兄ちゃんがいる役だったので、色々他の人の話とかも混ぜて演じていこうと思っています。実家での母に対する対応は、とも美みたいな感じです。外面というか猫をかぶるのが得意なんで(笑)。
東谷:(猫とかけて)上手いこと言ったなあ(笑)。
大内:私は、この脚本も読んでなかったし観たこともなかったんですけど、ちょうどキャスティングの話を頂いたのが去年の夏の公演をやってるときで。
猫ちゃんを再々演するにあたって、谷さんに「百花にぶつけるならオメエだ。オメエ面白しれぇ筈だろ」って言われて。それで私は何をされるんだろうって思ってたら茶猫だったっていう。私自身は意外でしたね。
深沢:私のキャスティングは、この中では一番最後だったと思うんです、多分。他のキャスティングを聞いたあとで「まち子、やる?」って聞かれて、最初は「まち子かぁ」と思ったんですけど、宮地くんにけん太をやらせたいから年齢層がグッと下がるので、まち子もそれに合わせて年齢を下げたいんだって言われて納得した感じでした。
前回、とも美をやってから3年半経って私の人生観も変わったので、改めて本を読むとまち子の方が今の自分に近いですし、私なりのまち子ができたらいいなと思ってます。(3年半の)再演の時にはとも美だったんですけど、周りの皆さんにたくさん鍛えてもらったこともあって、かなり思い入れのある作品なので、また出られるのは嬉しいですね。
──再々演と聞くと、皆さんのハードルも上がるように感じますが?
東谷:僕は何だか新作の気分ですね。初演と再演はほぼメンバーが一緒だったけど、今回は塚さん(塚越)と百花以外は初めての役なのであんまり関係ないというか、新作だと思います。
塚越:個人的には、3回同じ役をやらせて頂くことって小劇場の作品では、まずないんですよね。初演が2012年、再演が2015年、再々演が2019年とちょうど3年周期くらいで。僕が最初にこの作品に出会ったのが30……、あっ40歳過ぎてるんだ(笑)。今回がそろそろ50歳に手が届こうかって時なわけで、どんどん物語の中で描かれてるゆき男の年齢に近づいているんですね。本を読み返してみると、初演や再演の時にはおぼろげにしか分かって無かった事柄が、凄くリアルに感じてきたりっていう変化があって。だから自分の中ではハードルを上げてるっていうのはありますね。それをこの新しいメンバーでどうやっていくんだろうっていう楽しみはあります。
けど、正直に言うと僕はよし子をやりたいっていうのは、初演の時からずっと言っているんですけど(笑)。
ゆき男を3回演じられるというのも最大限自分の中で楽しみたいし、自分のレベルアップの機会にしたいとは思っています。
井上:今からでもチェンジっていうのはアリなんじゃない? 結構、僕は提案してるんですけどね。
全員:ない、ない(笑)。
井上:塚さんがやりたがってる役なのを知っているし、僕はそんなにやりたくないから……(大爆笑)。
百花:こら! こら! (笑)
東谷:まぁ将来的にね、塚さんがよし子をやれたら良いんじゃない。
全員:ね、ね。
塚越:オーディションの時に代役でよし子をやれたのが、楽しくて楽しくて仕方なかったです。
井上:あれをみて、よし子は塚さんでどう? って提案したの。あんなに楽しそうなんだから、いいよ譲るよって(笑)。
塚越:ほんと、オーディションで一人ではしゃいでました。
百花:確かにね、楽しそうだったものね。私は、まぁまさか3回も同じ役をやるとは思わなかったですね。初演の時は、ダルカラの劇団員として初めて出た公演で、しかも初演も再演も色々な事件が起こって(笑)。良い意味でも、そうでもない意味でも色々思い出深い公演で。
井上:どんなことが起こったの?
百花:ピー(自主規制)が入るようなことがあって(笑)。まぁ再演のときはですね、骨折してたんですね。本番の直前に骨を折って。
一同:(一斉に息を飲む)
百花:そしてギブスをしないまま公演をやり抜いて(笑)。
井上:今回はどんな事件が起きるのか。
百花:いや、だからこそ今回は安全に、何事もなく皆さん無事にっていう、それだけを願ってますね(笑)。
──では最後に、みなさんが思う「幸せって、何かしらねぇ?」を教えていただけますか。
東谷:あなたにとって幸せとは?っていう質問ですか?
百花:幸せって思える気持ちがあることかな。なんか小さなことでも、天気がいいとか、そんなことでも幸せだなって思える気持ちがあれば幸せだと思います。
塚越:誰かに必要とされていることですかね。こんな仕事をやっていると特に感じるんですけど、「この人に演じて貰いたい」とか「この人を観たい」とか「この人と一緒に演じたい」って言ってもらえること。
もちろん仕事だけじゃなくて、私生活でもそうなんですけど。誰かに「パートナーになりたい」とか「一緒にこの先も歩いていきたい」とかって言われること。そんな風に誰かが自分を必要としてくれることが、自分を満たしてくれるんだろうなぁと思います。
東谷:それって誰なの? 具体的な方が面白いっていうかさ(笑)。
塚越:例えばこのダルカラっていう劇団の中でも、ちゃんとお役を頂けることもそうだし。一番最初に客演でダルカラに出たときに谷さんに言ったんです、「お前、いらねぇよ」って言われるまでついて行きますって。押しかけ女房的に言ったんですけど、今もちゃんと参加させて頂けるって幸せだし、谷さんにずっと必要とされる役者で居たいなぁと思ってますね。
春名:存在を認識して貰えることかな。ちょっと塚越さんに近いと思うんですけど、人って誰かと繋がりたい気持ちってあると思っていて。自分のことを認めてあげられることは素晴らしいことだけれども、自分のことを認めるにも他人の目が必要で、多くの人の力を借りて自分のことを認めてあげることができるようになった時に、幸せだなって思うんじゃないかなって感じますね。
お芝居やっているのも、自分が演じる役がとんでもなく悪い奴でどうしよう? ってなった時でも、その悪い奴の中でも良いところというか悪いところの魅力が観せられたら、お客さんの中の千人に一人くらいは同じことで悩んでいる人がいるかも知れないし、お芝居の世界で色んな人間を描いてあげることで、誰かの存在を認めてあげる事ができる。っていうのがこの仕事のいいところかなって思っています。
お客様とか共演者とかスタッフさんだったりとか演出家だったりとか、そういう方達とお互いの存在を認識した瞬間っていうのが、幸せなんじゃないかなって思います。
宮地:難しいですね(笑)。僕は百花さんに近いかも知れないです。これが今幸せだって言えることが幸せっていうか。
僕はまだこれが幸せだって決めたくないんですよね。もちろん幸せになるために人に必要とされたりすることも多分幸せなんですけど。もっとまだまだ色んなところに幸せがあるって、新しい自分が待ってるって思います。
大内:かっけ~。
井上:気持ちわりぃ。
全員:(爆笑)。
東谷:兄弟喧嘩だ。
宮地:いやいや、親子、親子。兄弟は去年の夏だから、新しい関係を受け入れて(笑)。
大内:大内は、好きな物に苦しめられている時が幸せです。幸せって怖いじゃないですか。誰かから受け取る幸せって、受け取り過ぎたら裏切られた時とかにすごい落ち込んじゃったりするし。それよりも自分で生み出す「好き」を一杯貯めて、私ヲタクなんですけど好きなキャラクターグッズとかを延々と集めたり、好きな舞台を全通したりとかしたいんですよね。そうするとお金が無くなっちゃいますよね。すると苦しいじゃないですか。それでも「これ好きなんだぁ」って思いを抱えたいんです。
お芝居やっててもそうなんですけど「今、ハチャメチャこの役、つらい」とかって思いを自分で抱えてる方が、活路を見い出せるんです。「芝居辞めたい、役者辞めたい」って追い詰められた方が、「こう言う風に芝居変えてみたらいいじゃん」とか、相手のセリフをもう一回ちゃんと聞こうとしたり、自分が「好き」に阻まれて苦しまないと活路が見い出せないタイプなので、「好き」に苦しめられた方が自分は幸せです。生きてるって感じがします。
東谷さんはどうですか?
東谷:じゃ、深沢くん(笑)。
深沢:いや、結構難しい質問だなって思うんですけど。私は塚さんが言っていたことも分かるし、百花さんや大内さんの言ってたことも分かるんです。他人が居ないと生まれない幸せと、自分だけで生み出せる幸せの両方があるなと思うんです。
私は両方を感じることが多くて、私も彩加(大内)ちゃんと同じでアニメとかも好きで、自分一人で楽しいなとか幸せだなとか思える瞬間もあるし、でもなんでこの仕事をしているかというと、他人から認めてもらえる幸せもあるからで、自分の生み出した何かをみて「よかったよ」とか「楽しかったよ」って言ってもらえたり見られる笑顔とか、そういう気持ちが自分に落ちてきて初めて得られる幸せもあって。両方あると思うから一つには絞れないですね。
特に私は子供がいるので「ママ、ママ」って呼んで貰える幸せがあるんだなって。だから、よし子と近いものを脚本を読んでいて感じたんですよね。やっぱり誰かにすごく必要とされる事って難しい部分もあって、パートナーがいても終わってしまう事もあるし。永遠に持っていられるものじゃなくて、幸せって儚いものだなと思いますよね。
井上:ちょっと、全然違うんですけど。俺は、旅行してる時なんですよね。ルーツは遊牧民だったのかな? って思うほどちょっと一箇所に留まれないというか。時間やお金が続けば、一生そういう暮らしでもいいなって思うほどで。最近、なかなか遠くまでは行けないけど、近場でも普段行かないところへ行かないとおかしくなっちゃうんですよね。
東谷:最近幸せだったのって何かな?と考えると、M-1を観てる時ですね(笑)。M-1って凄いんですよ。凄く入れ込みすぎて上手く行かないコンビとか、欲が出すぎてお客が引いちゃったりとか、そういうドラマというか生の感じって言うのが凄いあって。
お笑い自体が好きなんですけど、そのお笑いの最高峰の漫才が見れるのがM-1でショーとしても凄いんですけど、自分はドキュメンタリー的な見方をしていて、なんか本当にみんな闘っていて何千組の中から8組だけがTVに出れるっていう、一年に一回のお祭りっていうのを生放送でやってる。最近はお祭り的な面が強調されすぎてて、それがあまり好きじゃないんですけど。でも、その漫才をやるってことに人生をかけていて、勝ち抜いて来て、結果が出るのはひと組だけで、それを観てるのが凄く刺激を貰えてて。
結局、お芝居を舞台の上に立って人に観てもらうっていう仕事も、それに近い経験があると思うんですよ。なんか千秋楽だからってすっごい頑張ろうとか、初日だから凄い緊張しちゃったとか、色んな経験を出演者はしてると思うんだけど、それって人間だからこそじゃないですか。本当にスーパーマンなんて居なくて、天才も居ないと僕は思ってて。その生の感じを曝け出すっていう仕事だと思うから、そこで戦ってる。それを全国の皆さんにお届けできるのがM-1で、出たいとは思わないんですけど、これからもずっと見てたいなって思います。
とにかく、舞台に立つっていうことは生であるってことで、そこをカッコつけたり取り繕ったりしないでやり続けたいですよね。だから、質問の答えとしてはM-1なんですよ。わかりやすく言うとね(笑)。
──今日は有難うございました。
一同:有難うございました。